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特集 TPP問題
「アメリカの開拓者らは、非キリスト教徒で、有色人種で、西欧文明に感化されていないアメリカン・ネイティブを、同じ人間として見ることなく土地を奪った。今度は、それを日本でやろうとしている」──。
岩上安身は、米国や豪州の大規模農業は、先住民族の土地を略奪して成立したものであり、「そんなものと同じ土俵で戦う必要はまったくない」とし、日本の農業者は誇りを持って、自分たちの農業を守ってもらいたいと訴えた。
2015年2月14日、宮城県栗原市の栗っこ農業組合(JA栗っこ)の招きで、IWJ代表の岩上安身が講演を行った。TPP交渉が大詰めを迎えている現在の状況、JAに対する安倍政権の冷淡な対応、日本の農業への影響などを語った岩上安身は、アメリカのグローバリズムの危険性を説き、「米国は、TPPで日本の農業を完全に解体しようとしている」と強調した。
安倍政権が標榜する「農政改革」の真意は、アメリカにとっての「良い改革」であり、かつての郵政民営化と同様、JAマネーの運用資金120兆円(保有資産は400兆円)が狙われていると、岩上安身は言う。
さらに、講演の終盤では国際情勢に言及し、「今、世界は安易な戦争市場に向かっている。キナ臭いのは中東、ウクライナ、極東の3ヵ所。アメリカが日本に求めているのは、集団的自衛権の行使で、中東、アフリカ、ウクライナに行くことだが、『イスラム国』による邦人人質事件で、それが一段と現実味を帯び始めた。危機は、すぐ近くにある」と警告した。
- 記事目次
- 「農政改革」はアメリカに都合の良い改革
- 「TPPに聖域はない」という自民党・大西英男議員の本音
- JAに手のひらを返す安倍政権
- 農業のジェノサイド、狙われるJAマネー
- 農業を廃業して何をする?──受け皿を考えていない日本政府
- 「悪魔の顔をした資本主義」の登場
- アメリカの食い物にされるウクライナ
- 空虚な国家、アメリカ
- 日本の農業者が「追いやられる先住民」にならないために
- 講演 新春 JA栗っこの集い 農政講演「今後の農業政策の方向性と農家・JAに与える影響について」 IWJ代表・岩上安身
- 日時 2月14日(土)13:00~
- 場所 栗原文化会館(宮城県栗原市)
「農政改革」はアメリカに都合の良い改革
「今、メディアがおかしくなっていて、事実を報じることが難しくなっている」と口火を切った岩上安身は、それは、日本が戦争をする国になろうとする、大きな曲がり角に来ているからだとし、まず、TPPの危険性を解説していった。
長年、レギュラー出演していたフジテレビの情報番組「とくダネ!」で、TPP批判を30秒ほど口にしただけで番組降板を求められた、と語る岩上安身は、「同番組では何でも自由に発言できたのに、TPPだけはダメだった。私は発信を続けるためにインターネット・メディア(IWJ)を立ち上げたが、既存メディアへの、スポンサーや政府からの圧力たるや露骨なものがある。まるで、戦前・戦中のような報道統制で、その結果、国民に正しい情報が伝わらない」とし、このように続けた。
「今、『農政改革』という言葉がある。通常、『改革』とは良い意味だが、『農政改革』とは、誰にとって良いのでしょうか。皆さんに良いことが起きますか? そうではなく、米国にとって都合の良いことを、日本の生産者の犠牲の上に行うのです。米国のために、日本の農政をねじ曲げることを『農政改革』と呼んでいる。そのエージェントが自民党です」
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「TPPに聖域はない」という自民党・大西英男議員の本音
今の自民党は米国資本の手先、と断じた岩上安身は、「昨年(2014年)7月にJAの講演に招かれた。依頼者は『衆・参の両選挙で、JAは安倍政権を応援して勝たせたのに、その安倍政権に殺されそうだ』と言い、私は、安倍政権の正体は(米国の)中間管理職ですよ、という話をした。その時のご縁で、昨年8月にはJA栗っこでも講演させていただいた」と振り返った。
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その講演の際、聴衆の目の色が変わったのは、「TPPに聖域はない。時間がかかっても関税ゼロにする。他の自民党議員も同じ考えだ」という、自民党の大西英男議員の言葉を紹介した時、と岩上安身は言う。
「私のインタビューを受けていた大西議員は、そのようにはっきり発言しました。インターネットで生中継していたので、映像はすべて残っている。本当の情報を知ったら、皆さんをごまかし続ける既存メディアの報道がバカバカしくなると思います」
この件を、岩上安身が日本農業新聞のコラムに書いたところ、農業関係者からの問い合わせが大西議員の事務所に殺到。大西議員の政策秘書から「発言を確認させてほしい」とIWJに連絡が入ったため、会員向けだった映像を全公開した。「その後、大西議員の事務所からも、自民党からも、何のクレームもない。事実なので、文句の言いようがないのだろう」
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JAに手のひらを返す安倍政権
しかし、このようなことがあっても、JAから自民党への抗議や反発は大きな流れになっておらず、岩上安身は、「もう、ラストチャンスです。(TPPは大詰めにきているので)安倍政権は本性をあらわにして、自民党の最大の支持基盤だったJAを、近頃では『最大の抵抗勢力だ』と言い始めた。童話『赤ずきん』のオオカミが正体を最後に現すのと同じ。だまし続けたあとで、皆さんを食ってしまおうということだ」と警告した。
2013年秋に一俵60キロの玄米で約1万3000円だった生産者米価は、昨年2014年秋、2割から3割の暴落を経て、今は1万円を切っている。岩上安身は、「これは農業恐慌といえる状態なのに、全国で報道されていますか? NHKで、ちゃんと伝えていますか?」と会場に問いかける。
「政府は、TPP締結の前に皆さんに騒がれては困るから、報道させない。しかも、国内のコメは作れば作るほど赤字になっているのに、甘利明TPP担当相は、米国からの輸入米を入れると言っている。これで、日本の農家の所得が上がりますか?」
岩上安身は、安倍首相は歴代首相の中でも一番の大嘘つき、と口調を強め、JA全中(全国農業協同組合中央会)が、政府の農協改革案に同意したことに触れて、「JA全中は独占していた監査権を手放して、一般社団法人になる。しかし、これで終わりではない。(米国は)日本の農業の完全解体を目指している」と指摘した。
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農業のジェノサイド、狙われるJAマネー
この国の農政は、農民や消費者のために組み立てられてきたのだろうか、と疑問を呈した岩上安身は、日本は戦後70年経っても、なお、米国による「ソフトな占領」が続いているとし、「沖縄のように明確に現れているところもあれば、目に見えない形の支配が続いている分野もある。農業も、そうではないか。特に、今のように軍事が動いている時代には、それに真正面から向き合わなくてはいけない」と危機感を表明、このように続けた。
「かつての日本では、コメと麦の二毛作が当たり前だった。小津安二郎の映画にも『麦秋』というタイトルの作品がある。だが、1951年に米国と結んだMSA協定で、米国の麦を輸入することになり、国内では麦を作らせないようにした。当時、これを『麦の安楽死』と呼んだが、農業ジャーナリストの大野和興氏は、『次はコメの安楽死、日本農業の安楽死。いや、農業のジェノサイドになるかもしれない』と言う。そうならば、殺されてたまるかと、必死で抵抗するのは当然です」
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農業が殺されることは、この国の国民にとって死活問題だ、と言葉を継いだ岩上安身は、「まず、国内の農産物をTPPでダメにして、実体経済を叩き、次に狙われるのは皆さんの懐のお金」と述べて、郵政民営化で郵貯マネー350兆円が狙われたように、農協改革においても金融(JAバンク)と保険(JA共済)の「JAマネー」の運用資金120兆円(保有資産は400兆円)が狙われている、と警鐘を鳴らす。
米国およびグローバル資本が求めるものは、農畜産物の市場開放、JAの解体と民営化、農業法人化による日本農業の乗っ取り、土地、水資源、と列挙した岩上安身は、「耕作放棄した山や田畑などは誰も買わない、と言われているが、水源地となれば別だ。これから、水が必要な国は増えてくる。グローバル資本も水を手に入れたがる。また、食料供給は、軍事、エネルギー資源などと並ぶ国家の存立基盤。食料の自給をあきらめることは、さらなる米国依存を強めることになってしまう」と、JA改革の先に展開する危険な未来を予想した。
農業を廃業して何をする?──受け皿を考えていない日本政府
これまでは一体になっていた、資本、国家、国土、国民が、バラバラに分離するような世界において、農家は存続することができるのだろうか、と岩上安身は問題提起し、大企業などが、途上国で広大な土地を得て大規模農業を行う、ランドグラビング(土地収奪)に言及。
「ウクライナでは戦火の影で、肥沃な国土3200万ヘクタールのうち160万ヘクタールを、カーギルやモンサント、デュポンなどのアメリカ資本が取得してしまった。国外の広大な土地で、現地の安い人件費で、遺伝子組み換え作物を、農薬規制もなく大量生産されたら、国内の生産農家は太刀打ちできない。皆さんは、農業を辞めざるを得ない」と続けた。【IWJテキストスタッフ・関根】
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■岩上安身によるインタビュー記事
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- 2013/06/17 【IWJブログ:「誰のためのTPP協定交渉なのか」政府の情報公開の姿勢に疑問の声相次ぐ ~TPP政府対策本部が経団連、JA全中、NHKなど128の業界団体向けに説明会を開催】
- TPP年内妥結見送りも「新しい餌」を献上し続ける安倍政権 ~その先にある「経済植民地化」(IWJウィークリー31号「岩上安身のニュースのトリセツ」より)