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特集 TPP問題
※ 1月29日テキスト追加しました!
環太平洋経済連携協定(TPP)交渉のカギは、日米協議にあると言われる。農業と自動車の分野で日米の交渉団が歩み寄れば、早期妥結も可能との見方は有力で、米民主党政権は、2016年の大統領選に向けてTPP交渉の妥結をアピールする腹づもりだ、との指摘もある。
だが、2015年1月24日、東京都内で講演したオークランド大学教授で貿易交渉問題に明るいジェーン・ケルシー氏は、オバマ大統領がTPP早期妥結の手柄を立てるのは難しい、と占う。また、たとえ日本に配慮した形で合意がなされたとしても、米国は、あとになって平気で前言をひるがえすような理不尽を強いてくるだろう、とも述べた。
ケルシー氏は「TPPには、ISD条項のほかにも、サーティフィケーション(承認手続き)という悪玉が隠されているのだ」と訴える。米国は、この承認手続きを使い、相手国の国内法や商慣習が貿易協定に相応しいかどうかを議会承認後に審査する。相応しくないと米国が判断した場合、当該国は米国の要求に沿うように変更を加えねばならないという。つまり、米国は日本に対し、あとから追加的な要求リストを突きつける可能性が十分あると、ケルシー氏は警告する。
ケルシー氏の講演は、TPP交渉差止・違憲訴訟の会(代表・原中勝征氏)の発足を記念して行われた。昨年2014年9月より設立準備を進めていた同会は、TPPの秘密性を問題視し、憲法が保障する国民の「知る権利」などを侵害しているとして、集団訴訟によりTPP交渉の差し止めと違憲確認を求めていく。幹事長は元農水大臣の山田正彦氏、弁護団共同代表は岩月浩二弁護士が務め、現在までの会員は2400人に上っている。
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この日のケルシー氏のスピーチからは、TPPは米国の憲法にも背いていることが浮かび上がった。TPP交渉の内容を秘密にすることは、米国議会が貿易交渉の権限を握る、という米国憲法による取り決めを無視しており、ケルシー氏は「議会が交渉内容を精査できない」と指摘する。
そして、米議会内部でもTPPの秘密性への反発が高まっているとし、日本でも同種の「情報開示」圧力が、政治家のみならず、一般市民の間にも広がれば、TPPでの米国の暴挙を封じることができるとして、「みなさんが『TPPは日本国憲法違反』と訴えていることは非常に心強い」と力を込めた。
- 記事目次
- 2015年1月から3月で大詰めを迎えるTPP交渉
- 外形的な「交渉妥結」を急ぐ米国──その後の政治的取引に注意
- オバマ大統領は「交渉権限」を握れるか
- 交渉の妥結後に、さらなる波乱が起こり得る
- 為替ルールまで盛り込まれる!?
- 「TPPは憲法違反」と政府に圧力をかけるべき
■Ustream録画(15:57~ 2時間45分)
- 記念講演 ジェーン・ケルシー (Jane Kelsey) 氏(オークランド大学教授)「TPP交渉におけるアメリカ議会と各国の現状と今後」~TPPはとめられる!~
- 日時 2015年1月24日(土)16:00~18:00
- 場所 コンベンションルームAP秋葉原(東京都台東区)
- 告知 ジェーン・ケルシー教授 記念講演/TPP交渉差止・違憲訴訟の会 設立総会
2015年1月から3月で大詰めを迎えるTPP交渉
この日は、収容規模が180人の会場に200人以上の聴衆が集まった。「席が埋まってきたので、みなさん詰めてほしい。隣が空席の人は手を挙げて知らせて」。司会を務めた前参院議員の大河原雅子氏の指示に従い、隣席の空き状態が挙手で示されると、遅れて到着した市民がそこに向かう。そんな光景がしばらく続いた後、大河原氏が開会宣言を行い、「われわれ『TPP交渉差止・違憲訴訟の会』設立を記念して、ケルシー教授にTPP交渉の現状などについてスピーチしてもらう」と述べ、ケルシー氏が登壇した。
拍手を浴びながらマイクに向かったケルシー氏は、開口一番、「TPP交渉の早期妥結を狙うオバマ米大統領には『自身の功績づくり』の狙いがある」と指摘。「そのためには、遅くとも今年2015年5月初旬には、TPP交渉がまとまらねばならない」とした。
背景にあるのは、2016年に実施される米大統領選挙だ。今年の後半には、それを視野に入れた米議会の駆け引きが本格化する。民主党政権としては、そうなる前に決着をつけたいのだという。
今後のTPP交渉のスケジュールについて、ケルシー氏は、1. 来週(1月26日から)、ニューヨークで始まる参加12ヵ国の主席交渉官会議が、事務レベル会合の最後になる、2. 続く3月に予定されている各国大臣らによる閣僚会議では、政治的な意思決定がなされる、の2点を指摘した。
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外形的な「交渉妥結」を急ぐ米国──その後の政治的取引に注意
「仮に、5月初旬の時点でTPP交渉がまとまっていなければ、アメリカ社会のTPPへの関心は薄れていくだろう」と続けたケルシー氏は、5月初旬までの交渉妥結のカギを握るのは日本と米国の協議だ、と強調した。日米だけで、TPP交渉参加12ヵ国の経済規模の約8割を占めるからだ。
早期妥結をもくろむ米政府は、農作物や自動車の分野で対日要求に軟化の姿勢を見せつつある、とケルシー氏は指摘する。しかし、「油断は禁物」とも語り、たとえ米国が、主席交渉官会議で輸出要件を取り下げたとしても、それは外形的に交渉をまとめるための措置でしかない、と力説した。
「事務レベルで交渉が妥結しても、米議会が、妥結内容の再交渉を日本に要求する可能性が十分にある」
このように話すケルシー氏は、事務レベルでの妥結のあとに待ち構えている、日米の担当大臣による「政治的取引」が曲者だと訴えた。
TPP発効の前には米議会の承認が必要、と強調したケルシー氏は、「米議会には、さまざまな企業からロビイストが送り込まれている。彼らは自分らが実利を得るために政治家に働きかける人たちで、(TPPでも)自分らが望む水準で発効されなければ不満を抱く」と言い、こう強調した。「ロビイストらは、まとまったTPP交渉の内容が、自分らの納得がいかないものであれば、再交渉を議会に強く要求するだろう」。
そしてケルシー氏は、「そうさせない手段に『ファストトラック』と呼ばれるものがある」と述べた。【IWJテキストスタッフ・富田】
オバマ大統領は「交渉権限」を握れるか
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