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※7月16日テキストを追加しました!
「TPPは、単なる貿易交渉の範疇をとっくに超えている。アメリカ・ルールをあらゆる分野で押し付けてくる。その最大のターゲットが日本」──。内田聖子氏はTPP交渉への危機感を露わにした。
TPPを考える町田の会主催による「暮らしが変わる? TPP@まちだ」が2015年7月5日、東京都町田市の生涯学習センターで開催され、パネリストとして、弁護士の宇都宮健児氏、アジア太平洋資料センター(PARC)事務局長の内田聖子氏、環境問題ジャーナリストの天笠啓祐氏が招かれた。
内田氏は、さまざまな不安の声が上がっているにもかかわらず、日本政府がTPP妥結に突き進むことについて、「政府は、TPPによって利益が出る日本のグローバル企業を重視している。そうした企業に対して『TPP妥結できませんでした』とは、死んでも言えないのが安倍政権」と指摘した。
宇都宮氏は、ISD条項の危険性を解説した。「ISD条項は、日本の主権を侵害する大きな問題を秘めている。日本の制度が、外国企業に損害を与えたとなると、日本政府が訴えられる。その結果、制度を廃止せざるを得なくなる。日本国民の健康、命、環境を守る制度が、ISD条項によって崩される」と訴えた。
天笠氏は、食の観点からTPPが及ぼす影響を懸念。「TPPで安いモノが日本に入ってきても、喜んではいられない。安いモノが来ることで、安いモノに対抗するため、日本の企業は荒廃する。安いモノだけでなく、遺伝子組み換え食品やクローン家畜、感染症に冒された食肉といった、安全が確認されていない食品も入ってくる。日本の安全審査さえ、TPPのもとでは貿易障壁にされてしまう」と不安を語った。
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- 記事目次
- TPPはあらゆるモノ、サービスを市場原理にさらす
- 経済界に「できませんでした」とは死んでも言えない安倍政権
- 日本国民の健康、命、環境を守る制度が崩される──ISD条項
- 日本社会全体をアメリカ流に改革するのがTPP
- TPPで安いモノが流入、日本の企業は荒廃する
- 多国籍企業による種子支配、食料支配
- 立場や国境を超えた、TPP反対運動の連携を
- パネリスト 宇都宮健児氏(弁護士、元日本弁護士会会長、反貧困ネットワーク代表、TPP阻止国民会議副代表世話人)/内田聖子氏(アジア太平洋資料センター〔PARC〕事務局長)/天笠啓祐氏(環境問題ジャーナリスト、市民バイオテクノロジー情報室代表)
- 日時 2015年7月5日(日)18:30〜21:00
- 場所 町田市生涯学習センター(東京都町田市)
- 主催 TPPを考える町田の会
TPPはあらゆるモノ、サービスを市場原理にさらす
まず、内田氏がTPPの基本から説明した。
「TPP交渉は貿易交渉で12ヵ国が参加。分野は大変広く24分野ある。日本では、TPPは関税の問題として取り扱われているが、関税が関係するのは24分野のうち、たった3つしかない。むしろ、保険や投資、労働というサービス分野を完全に組み込んでの24分野。そして、ルールを一元化していこうという交渉である。要するに、私たちの暮らしすべての分野が、TPPに関わってくるのだ」
TPPのような地域レベルの自由貿易協定ができた経緯は、ひとつにWTO(世界貿易機関)の協定がまったく決まらないことにある、と内田氏は言う。アメリカの目的である、グローバル・ルールという名のアメリカ・ルールの押し付けに、途上国や新興国(ブラジルやインド)から反発があり、そこで、2ヵ国間の自由貿易協定のFTAに方針転換した。アメリカはWTOを進めながら、一方で、特に中南米の国に対して、TPPの源流と言われている自由貿易協定を次々と結んでいった。その末に、もともと小さな国でやっていたアジア太平洋地域の貿易協定に入り込み、中身を変質させていく。そのプロセスがTPPの経緯だ、と説明した。
TPPは単なる貿易交渉の範疇をとっくに超えている、と指摘する内田氏は、このように言葉を重ねた。
「アメリカという国は、ダブルスタンダードを実行しても、何の矛盾も感じずにいられる、とても不思議な国だ。相手の国には『関税を撤廃しろ』と強硬に言っても、自分の国の自動車などは関税を取り払わない。だから、グローバル・スタンダードといった場合、ほとんどはアメリカン・スタンダードとなる。それは、あらゆるモノやサービスを市場原理の中に放り出すという、壮大な目的を持った取り組みであり、アメリカは日本市場をターゲットにしている。『日本にとって凄まじい脅威』が、私たちの目の前に突きつけられているのが現実だ」
経済界に「できませんでした」とは死んでも言えない安倍政権
TPPの今後の見通しについて、内田氏は、「交渉での対立の構図は一貫して変わっていない。難航分野は絞られてきていて、知的財産の問題、国有企業という分野、投資に関してはISD条項。交渉しても決着がつかないので、閣僚会議や首脳会議といったハイレベル交渉に移っている」と述べた。
2015年5月、TPP交渉の行方を左右すると言われるTPA(大統領貿易促進権限)法案が、アメリカの上院を通過した。内田氏は、「その瞬間、日本のマスコミはこぞって『これでTPPはオッケー』という記事を書きまくった。甘利明TPP担当大臣も、これで7月には妥結できるような発言をしている。しかし、これは飛ばし記事も甚だしい」と憤る。
アメリカには貿易調査局があり、これがTPAに基づいて、TPPが実際に妥結した後、いろいろな手続きや議会の承認、法的なチェックなどを進める。そのスケジュールを考えると、「TPPは2015年11月のAPECで妥結するのが最短」などと言われているが、それすら厳しい見通しだという。
それぞれの国が「譲れないものがある」と主張する中で、「もう大丈夫です、譲ります」と言っているのは日本だけだ、と内田氏は語る。「だから、政府に猛抗議しなければならない。少なくとも他の国は、こんなに先走って相手の要求に応じるようなことは絶対にしない。むしろ、『TPAを取ったのはアメリカがスタートラインについただけ。私たちは、1からきちんとやる』と言っている。アメリカの国内でも、そうとらえられている。そのような中で、日本の姿は異常だ。この7月の閣僚会議は、まだ開かれるかどうかすら決定していない。開かれたとしても、妥結はそんなに甘いものではない」と力説した。
いろいろな懸念や不安の声、反対を無視して、日本は、なぜTPP妥結に前のめりなのか。この疑問について、内田氏は、「日本政府は、TPP参加によって利益が出る日本のグローバル企業を重視しているからだ」と説明する。
確かに、TPPによって儲かる日本企業もある。食品系、流通系、外食系の企業。さらに、農業機械メーカー、農薬関係、医療機器分野なども含まれる。内田氏は、「セコムも自由診療・自由医療の保険販売を狙っている。また、エレクトロニクス関連や自動車関連もそうだ。つまり、安倍政権は(自民党に献金してくれる)財界に、今さら『TPP妥結できませんでした』とは死んでも言えない」と看破した。
日本国民の健康、命、環境を守る制度が崩される──ISD条項
次にマイクを握った宇都宮氏は、「TPPで締結される可能性があるISD条項は、日本の主権を侵害する大きな問題を秘めている。その認識で一致して、TPPに反対する弁護士ネットワークを立ち上げた」と切り出した。
ISD条項について、これまでは、「先進国が後進国と貿易協定を結んだ場合、後進国で革命政権が誕生して財産が没収されたような場合の、投資の保証を担保するもの」と説明されてきた。しかし、TPPではISD条項により、外国企業が、投資先の国の法律や条例あるいは国民の健康、安全、環境を守る制度によって損害を被った場合、いきなり、国際投資紛争仲裁センターに投資先の国を訴えることができる。
宇都宮氏は、仮にISD条項で日本政府が訴えられた場合、「日本の裁判所はまったく関与せず、国際投資紛争仲裁センターでトラブルを解決する。そこで多額の損害賠償を認められると、対象となった日本国内の制度は、撤廃や緩和をせざるを得なくなる危険性がある」と懸念する。
1994年に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)は、アメリカ、カナダ、メキシコの間で結ばれている。その後、ISD条項に基づく訴訟が45件あり(アメリカ企業から29件、カナダから15件、メキシコから意見の提訴)、その中で勝訴したのはアメリカ企業だけである。アメリカ企業はメキシコ政府に対して5勝、カナダ政府に対して2勝して、莫大な損害賠償金を得ている。
「背景には、国際投資紛争仲裁センターへの、アメリカの影響力が非常に強いことがある。アメリカ企業が有利になる判断が出がちなのだ。しかも、そこで出された判断に対して、(通常の裁判のように)上訴することはできない。そういう危険なものが、持ち込まれようとしている」と、宇都宮氏は警鐘を鳴らす。
【IWJテキストスタッフ・花山】
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